春の風物詩、つくしの収穫と調理方法について。

こんにちは、夫のほうです。

これは。この暖かさは。ようやく春が来たんではないだろうか。
春を待ち望む者界のヒエラルキーではかなり上位に位置する自負のある僕だが(なぜなら極細身で、冷え性で、家が木造だから)、今年の春のシャイさには辟易した。

「お、暖かい。春来たか?」→来てない。
「お?春来たか?」→来てない。
「お?」→来てない。

強烈な焦らされプレイを食らわされたが、ようやく靴下を履かずに寝ても足先の冷えが気にならなくなったので、これは春が来たと言えるだろう。

さて、中年男性と春の駆け引きは置いといて、館山にはすっかり春が訪れている。

根をしっかり張り巡らせるためにわざわざ土中でひと冬を越す必要があるという苦労の絶えない花、チューリップ。今まさにその鬱憤を晴らすべくビビッドな花房を広げんとしているところ。

河川沿いにはこれまたビビッドな花。
こいつは至るところに生えている。野生なのだろうか。

そしてお待ちかね、春の風物詩といえばこいつ。そう、つくし。

都市部でその姿を見る機会は限りなく少ないが、ちょっと田舎に行くとアホみたいに生えているつくし。

漢字で土筆と書くように、筆のような形状が特徴的なのだが、その生態を知る者は意外に少ないのではないだろうか。

実を言うと、つくしは「スギナ」という植物の胞子体にあたる。スギナというやつが本体で、春になるとつくしをニョキッと伸ばして先端から胞子をばらまく。

スギナは百姓に大層嫌われておる。なぜかと言うと、めちゃくちゃ駆除しにくい野草だからである。普通の野草は、根っこごと引っこ抜いてしまえば生えてくることはない。しかしスギナは、抜いても抜いても次から次へと生えてくる。

なぜスギナは抜いても生えてくるのか。その理由は「地下茎」という生態にある。スギナは地中に茎を張り巡らせ、その一部だけをひょこっと地面に出す。つまりあなたが一生懸命抜いたと思ったそのスギナは、スギナの先っぽも先っぽ、ほんの一部というわけだ。本体は地中でほくそ笑んでいる。

巨大な悪の組織を思い浮かべてほしい。やっとの思いで怪人ナントカを倒して、さあ平和だー!と思ったら、組織から続々と新たな怪人を送り込まれて泥沼の消耗戦が続くイメージだ。

ちなみに竹やアスパラガス、あとミントなんかも地下茎タイプです。あいつらみんな悪の組織です。

さて無敵のスギナの胞子体だということで、田舎にはアホほどつくしが生える。館山にも広範囲に渡り無数のつくしが天に向かってにょきにょきと伸びていた。僕は「タダ飯だー!」と喜び勇んで大量のつくしを収穫した。

つくしを収穫する際に注意いただきたいのは、先端の丸い部分の開き具合だ。先の写真のように先端が閉じて綺麗な楕円状のものは、まだ胞子をばらまく前の若い状態。これが仕事を終えると、先端が開いて「ひと仕事終えた感」が出る。どちらが良いかは好みのようだが、若いやつのほうがみずみずしくて食感に勝っていると感じる。ただし緑色の胞子が手についたり、調理後に先端だけ緑色になって気持ち悪いという現象が起きがちなので気をつけたし。

さて、収穫したつくしは当然ながらそのままでは食べられない。①袴を取り、②下処理してアクを抜く、という2段階の作業が必要となる。この2つは、なるべくその日のうちにやってしまいたい。2日も置くとからからに干からびてしまう。


まずは黙々と袴を取る。袴(はかま)とは、つくしの胴体の節々にあるギザギザしたアレだ。手でペリッとはがせば簡単に取れる。単純作業ここに極まれりといった感じだが、頭を使わず淡々と手を動かすというのは、実はストレス解消になる。

袴を取り終えたらアク抜きだ。これは野草全般に言えるのだが、アク抜きをしないと苦味や雑味が強くあまりおいしくない。ちなみに普段食べている野菜は、長年の試行錯誤によってアクが少なくなっているものが多い。野菜だってもとを辿れば似ても似つかないただの野草だったりする。

つくしのアク抜きの方法は色々あるが、多めのお湯でさっと茹でた後、一晩冷水につけておけば間違いないだろう。ここまでが下処理になる。長丁場だが、野草を食べるということはこういうことだと割り切ってプロセスを楽しむと良い。繰り返すが、下処理は収穫したその日のうちに終わらせておくことをおすすめする。水分が抜けて細々としたつくしはあまりおいしくない。逆に下処理をしてしまえば数日はこのままでも新鮮さを保てる。

いよいよ調理に入る。つくしの食べ方といえば、佃煮か卵とじが一般的と思われる。今回は佃煮を楽しむことにした。

佃煮はとても簡単で、下処理の終わったつくしを鍋かフライパンに投げ込み、100ccほどの水を入れた後、醤油・みりん・酒をそれぞれ大さじ1〜2杯お好みで加え、水分が飛ぶまで火にかけるだけ。調味料の配分はアバウトで良いが、甘さと辛さのバランスをどう取るか、腕の見せどころだ。

出来上がった佃煮を食べる。色味はないものの、柔らかい食感と微かに残るクセがたまらない。米好きは例外なく好きに違いない。その辺に生えている野草を使ってこれだけ旨いものが食べられるというのはすごいことではないだろうか。

多分つくしを栽培している農家はいないはずなので、食材としてつくしを楽しむには、この時期に自分で摘み取ってくるしかない。そう考えると、なんだかとても贅沢なもののように感じてくる。

つくし狩り、おすすめです。

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